吐水口空間とは|呼び径別の法定数値と「管径の2倍」の誤り
/更新:
PR この記事には広告を含みます。
結論 — 吐水口空間は「管径の2倍」ではなく、呼び径の区分ごとに数値が決まっている
吐水口空間とは、越流面(水受け容器から水があふれ出す水平面)から吐水口の最下端までの垂直距離のこと。水道法系の給水装置では、根拠は給水装置の構造及び材質の基準に関する省令(平成9年厚生省令第14号)第5条第1項第2号と、その別表第二・別表第三です。
呼び径25mm以下(別表第二) — 近接壁から吐水口の中心までの水平距離/越流面から吐水口最下端までの垂直距離の順に:
- 呼び径 13mm以下 … 25mm以上 / 25mm以上
- 呼び径 13mm超20mm以下 … 40mm以上 / 40mm以上
- 呼び径 20mm超25mm以下 … 50mm以上 / 50mm以上
呼び径25mmを超える場合(別表第三)は固定値ではなく算定式です。近接壁の影響がなければ (1.7×d+5) mm 以上(d=有効開口の内径)。近接壁がある場合は、壁が一面か二面か、壁からの離れが吐水口の内径Dの何倍かで (3×d)/(2×d+5)/(3.5×d)/(1.7×d+5) と切り替わります。
読み替え規定(いずれも垂直距離=表の下欄のみ。水平距離は変わりません) — 浴槽に給水する場合は別表第二の25mm・40mmが50mmに読み替えられ、別表第三では算定値が50mm未満なら50mm以上。プール等の水面が特に波立ちやすい水槽、および事業活動に伴い洗剤又は薬品を入れる水槽・容器では、別表第二の下欄の値は一律200mmに読み替え、別表第三では算定値が200mm未満なら200mm以上です。
吐水口空間は、給水管の中が負圧になったときに水受け容器側の水を吸い戻さないための「物理的な縁切り」です。弁や装置と違って壊れようがないため、省令が装置による防止と空間による防止を選択関係で並べているなかでも、まず空間の確保から検討するのが設計の通例になっています。
一方で、この用語ほど現場で数値が食い違うものも珍しくありません。「管径の2倍」「最低50mm」「最低150mm」——どれも実際に現場で飛び交いますが、そのうち法令の条文に書かれているのは上の表と式だけです。本記事では、まず水道法系の条文を正確に押さえ、そのうえで「なぜ現場で数値がばらけるのか」まで示します。
吐水口空間の定義と逆流防止が現場の信頼を左右する理由
吐水口空間は、給水設備のなかでも「定義を1mm取り違えると不適合になる」種類の用語です。クロスコネクション(飲料水の給水管とそれ以外の管の直接連結)は水道法施行令第6条第1項第6号で禁じられており、水槽・プール・流しなど水を受ける器具への給水には同項第7号で逆流防止措置が求められます。吐水口空間はこの措置の中心にあたります。
逆に言えば、定義があいまいなまま図面を描くと、越流面の取り方ひとつで法適合が崩れます。ここは感覚ではなく、条文の言葉どおりに押さえる必要があります。
給水装置の末端である吐水口と越流面の正確な概念
吐水口とは、給水装置から水が流出する末端の開口部を指し、実務では蛇口の先端や給水管の出口そのものを意味します。越流面とは、水受け容器が満水になったときに水があふれ始める水平面(あふれ縁、オーバーフローレベル)です。この2つの間の垂直距離が吐水口空間です。
実測でつまずくのはほぼ越流面のほうです。そして受水槽のように越流面がオーバーフロー管で決まる場合、その管のどこを起点に取るかは基準系によって違います(後述)。ここを取り違えると、吐水口側をいくら正確に測っても結果は狂います。
- 吐水口:給水装置の末端開口部(蛇口先端など)
- 越流面(あふれ縁/オーバーフローレベル):容器から水が溢れ出る水平面
- 吐水口空間:吐水口の最下端と越流面との垂直距離
なお、省令が測る対象は「垂直距離=越流面から吐水口の最下端まで」「水平距離=近接壁から吐水口の中心まで」で、基準点が違います。表を読むときはここを混ぜないでください。この「垂直は最下端・水平は中心」という非対称は、後で触れる数値の混乱の一因でもあります。
物理的な縁切りによる汚染事故リスクの構造的排除
給水システムにおいて、飲料水の給水管とそれ以外の管を直接接続するクロスコネクションは禁止されています。吐水口空間の確保は、物理的な「縁切り」によって、受水槽やプールなどの水が給水管へ逆流することを防ぐ手段です。
水道法第16条は「水道事業者は、当該水道によつて水の供給を受ける者の給水装置の構造及び材質が、政令で定める基準に適合していないときは、供給規程の定めるところにより、その者の給水契約の申込を拒み、又はその者が給水装置をその基準に適合させるまでの間その者に対する給水を停止することができる」と定めています。第16条自体は数値を定めた条文ではなく、不適合時に給水を拒否・停止できるという権限規定である点に注意してください。具体的な数値は施行令第6条を経由して省令(平成9年厚生省令第14号)に落ちています。
装置より先に空間の確保を検討するのが通例なのは、空間には故障という状態が存在しないからです。逆止弁もバキュームブレーカも経年で効かなくなりますが、いったん確保された隙間は勝手に縮みません。
水道法が定める吐水口空間の具体的な垂直距離基準
ここが本題です。数値の出どころは給水装置の構造及び材質の基準に関する省令 第5条第1項第2号で、イが呼び径25mm以下(別表第二)、ロが呼び径25mm超(別表第三)を指しています。
呼び径25mm以下は別表第二の区分表で決まる(「管径の2倍」ではない)
呼び径25mm以下では、吐水口空間は計算しません。呼び径の区分ごとに数値が直接決まっています。
| 呼び径の区分 | 近接壁から吐水口の中心までの水平距離 | 越流面から吐水口の最下端までの垂直距離 |
|---|---|---|
| 13mm以下 | 25mm以上 | 25mm以上 |
| 13mm超20mm以下 | 40mm以上 | 40mm以上 |
| 20mm超25mm以下 | 50mm以上 | 50mm以上 |
つまり呼び径13mmなら、法令が求める垂直距離は25mm以上です。「管径の2倍で26mm」でも「最低50mm」でもありません。「呼び径25mm以下は一律50mm以上」という説明が現場でも解説記事でも広く流通していますが、省令の別表第二にその規定はありません。50mmが出てくるのは、別表第二では呼び径20mm超25mm以下の欄と、後述する浴槽の読み替え規定のときだけです。
安全側に50mm取ること自体は悪くありません。ただし、それを「法定基準です」と検査機関や協力業者に言えば、根拠を出せずに引っ込めることになります。設計上の余裕と法定の下限は分けて言う——これが実務での分かれ目です。
呼び径25mm超は固定値ではなく算定式(別表第三)
呼び径が25mmを超えると、吐水口空間は有効開口の内径から算定します。近接壁の有無と壁からの離れによって式が切り替わるのが特徴です。
| 区分 | 越流面から吐水口の最下端までの垂直距離 |
|---|---|
| 近接壁の影響がない場合 | (1.7×d+5) mm 以上 |
| 近接壁が一面:壁からの離れが (3×D) mm 以下 | (3×d) mm 以上 |
| 近接壁が一面:壁からの離れが (3×D) mm 超 (5×D) mm 以下 | (2×d+5) mm 以上 |
| 近接壁が一面:壁からの離れが (5×D) mm 超 | (1.7×d+5) mm 以上 |
| 近接壁が二面:壁からの離れが (4×D) mm 以下 | (3.5×d) mm 以上 |
| 近接壁が二面:壁からの離れが (4×D) mm 超 (6×D) mm 以下 | (3×d) mm 以上 |
| 近接壁が二面:壁からの離れが (6×D) mm 超 (7×D) mm 以下 | (2×d+5) mm 以上 |
| 近接壁が二面:壁からの離れが (7×D) mm 超 | (1.7×d+5) mm 以上 |
別表第三には水平距離の規定がありません。第5条第1項第2号ロが求めているのは下欄の垂直距離だけです(水平距離を求めているのはイ=別表第二のみ)。壁からの離れは、ここでは規制値ではなく「どの式を使うか」を決めるための条件として登場します。呼び径25mm以下の感覚を引きずって「水平も確保しなければ」と読まないでください。
備考の「越流面より少しでも高い壁がある場合は近接壁とみなす」は見落としが多いところです。受水槽の内壁、点検口の立ち上がり、器具のリブでも、越流面より高ければ近接壁として扱われ、必要な距離が変わります。図面の平面だけを見て「壁は離れているから影響なし」と判断すると、この備考で覆ります。
プールや薬品容器に適用される200mm以上の特殊基準
特殊な用途では読み替え規定が働きます。対象はプール等の水面が特に波立ちやすい水槽、および事業活動に伴い洗剤又は薬品を入れる水槽及び容器です(いずれも吐水口一体型給水用具を除く)。読み替えられるのは表の下欄=垂直距離だけで、中欄の水平距離は元の25/40/50mmのままです。
- 呼び径25mm以下(別表第二 備考2):下欄の25mm・40mm・50mmを、いずれも200mmと読み替える
- 呼び径25mm超(別表第三 備考5):算定式で出た値が200mm未満なら、200mm以上とする
- 浴槽に給水する場合(別表第二 備考1/別表第三 備考4):下欄の25mm・40mmは50mmと読み替え、算定値が50mm未満なら50mm以上
実験室の薬品シンクや厨房の洗剤槽を一般の流しと同じ感覚で描くと、ここで一発で落ちます。「事業活動に伴い」という限定が付いているのは洗剤・薬品側の水槽等で、プール等の波立ちやすい水槽にはこの限定がかかりません。用途を条文の言葉に当てはめて判断してください。
逆流防止装置の性能基準とバキュームブレーカの役割
吐水口空間が物理的に確保できない場合の代替が、省令第5条第1項第1号に列挙された逆流防止性能又は負圧破壊性能を持つ給水用具です。第1号(装置で防ぐ)と第2号(空間で防ぐ)は柱書のとおり「いずれかに該当」の選択関係で、両方必須ではありません。
第1号の内訳は器具の種類で分かれます。イ(減圧式逆流防止器)は逆流防止性能試験と負圧破壊性能試験の両方、ロ(逆止弁・逆流防止装置を内部に備えた給水用具)は逆流防止性能試験のみ、ニ〜ヘ(バキュームブレーカ、負圧破壊装置を内部に備えた給水用具、吐水口一体型給水用具)は負圧破壊性能試験です。ハは独立した器具の類型ではなく、ロの規定を特定の給水用具に適用する際の字句読み替え規定で、減圧弁については「1.5MPa」を当該減圧弁の設定圧力に、浴槽直結の自動給湯機・給湯付きふろがまについては「1.5MPa」を50kPa(循環ポンプを有するものは当該ポンプの最大吐出圧力又は50kPaの高いほう)に読み替えます。減圧弁を扱うときに1.5MPaをそのまま当てないよう注意してください。
負圧による逆流を防ぐバキュームブレーカの併用判断
バキュームブレーカは、管内が負圧になった瞬間に空気を吸入して真空を破り、サイホン作用による逆流を止める大気開放型の器具です。省令第5条第1項第1号ニは、負圧破壊性能試験で流入側から−54kPaの圧力を加えたとき、接続した透明管内の水位上昇が75mmを超えないことを求めています。
設置位置にも規定があります。同号柱書は、ニに掲げるもの(=バキュームブレーカ)については水受け容器の越流面の上方150mm以上の位置に設置することを求めています。この150mmはバキュームブレーカの設置高さであって、吐水口空間の最小値ではありません。両者を混同した説明が非常に多いので、条文の主語を必ず確認してください。
実務上は、まず空間の確保を検討し、構造上どうしても取れない場合の次善策として装置を選びます。装置に寄せた設計をするなら、作動原理と故障時に何が起きるかを施主・管理者に明示しておくべきです。点検されない大気開放弁は、数年後には単なる穴です。
1.75MPaと20kPa — 耐圧性能基準の2つの数値
給水装置の耐圧基準は省令第1条にあります。原則は、耐圧性能試験により1.75MPaの静水圧を1分間加えたとき、水漏れ・変形・破損その他の異常を生じないこと(第1条第1号)。
これに加えて、パッキンを水圧で圧縮することにより水密性を確保する構造の給水用具には、第1条第4号で20kPaの静水圧を1分間加えたときにも異常を生じないことが上乗せされます。高水圧では潰れて効くパッキンが、微圧では密着せず漏れる——その挙動を潰すための規定です。これは耐圧性能の話であって、「低圧時に逆流を阻止する性能」ではありません。逆流防止性能は第5条第1項第1号イ・ロで別に規定されています。
水撃限界は第3条です。流速2m/s又は動水圧0.15MPaの条件で止水機構を急閉止したとき、上昇圧力が1.5MPa以下であることを求めています。
| 試験項目 | 基準値 | 根拠条文 |
|---|---|---|
| 耐圧性能(原則) | 1.75MPaの静水圧を1分間で異常なし | 省令 第1条第1号 |
| 耐圧性能(パッキン圧縮構造の給水用具) | 上記に加え20kPaの静水圧を1分間で異常なし | 省令 第1条第4号 |
| 水撃限界 | 上昇圧力 1.5MPa以下 | 省令 第3条 |
| 逆流防止性能(逆止弁・逆流防止給水用具) | 3kPa及び1.5MPaの静水圧を1分間で異常なし | 省令 第5条第1項第1号ロ |
| 逆流防止性能+負圧破壊性能(減圧式逆流防止器) | 3kPa及び1.5MPaの静水圧を1分間で異常なし、かつ −54kPaで透明管内の水位上昇 3mm以下 | 省令 第5条第1項第1号イ |
| 負圧破壊性能(バキュームブレーカ) | −54kPaで透明管内の水位上昇 75mm以下 | 省令 第5条第1項第1号ニ |
同じ−54kPaでも、減圧式逆流防止器は3mm、バキュームブレーカは75mmと要求が桁で違います。器具の種類を確かめずに数値だけ覚えると取り違えます。
現場での実測確認と適合性の証明
数値を知っていても、現物が図面どおりとは限りません。吐水口空間は、防水厚・器具の据付高さ・配管の振れといった施工誤差がそのまま効いてくる寸法です。
受水槽や浴槽設置時のオーバーフローレベル実測術
受水槽、流し、洗面器、浴槽の設置では、吐水口と越流面の垂直距離を現物で実測します。図面上は成立していても、防水の立ち上がりや器具の取り付け高さの差で法定距離を割る事例は珍しくありません。
実測時に押さえる点は3つです。
- 越流面の特定:どこを越流面とするかを、採用する基準系に照らして先に決める。受水槽のオーバーフロー管では起点の取り方が基準系で分かれます(次章)
- 近接壁の判定:越流面より高い壁・立ち上がりがないか。あれば別表第三の壁ありの式に切り替わる
- 記録:実測値と計測状況を写真で残す。後から「基準内だった」と証明できる形にしておく
水道事業者の給水契約拒絶を回避する適合性の証明
給水装置が施行令第6条の基準に適合していることは、給水契約を維持する前提条件です。適合が確認できなければ、水道法第16条により給水の申込拒否・給水停止という判断が可能になります。罰金のような制裁ではなく水が出ないという形で効いてくるため、引き渡し直前に発覚すると影響が大きい。検査の直前ではなく、器具の選定段階で押さえておくべき項目です。
現場で数値がばらける理由 — 基準が1つではない
ここまでは水道法系の話です。しかし現場で「吐水口空間は150mm」「2倍」といった別の数字が飛び交うのには理由があります。同じ「吐水口空間」という言葉が、複数の異なる基準系で使われているからです。
そもそもこの省令には「越流面」の定義規定がありません。条文と別表で語としては使われていますが、どこを起点に取るかは書かれていない。だから起点の取り方は各基準系の指針に委ねられ、そこで答えが割れます。
設備技術者の掲示板「建築設備フォーラム」に、この構造がそのまま表れたスレッドがあります。質問者は受水槽のオーバーフロー管が横取出し方式のとき、越流面をどこに取るかで詰まっていました(建築設備フォーラム「受水槽の吐水口空間について」2019年)。
1)建築設備設計・施工上の運用指針(2013年版) オーバーフロー管の下端から給水栓の吐水口端までの垂直距離
2)給水装置工事技術指針 吐水口の最下端から越流面までの垂直距離で、越流面とは、横取出しにおいては、越流管の中心をいう。
オーバーフロー管の「下端」か「中心」か?
ベテランの人達に相談しましたが、1)が正しいという人と、2)が正しいという人が半々です。
ベテランでも半々に割れる、というのがこの用語の実情です。回答者の一人(さくら氏)は「よるべき基準が異なりますので比べることはできません。1は下端、2は中心となります」と即答しています。どちらかが間違っているのではなく、どちらの基準系に乗っているかで答えが変わるという構造です。
そのうえで masa 氏が、実務で使える切り分けを示しています。要旨は次のとおりです。吐水口が給水装置(水道法適用)であれば水道法に基づく技術指針となり、横取出しのオーバーフロー管では管の中心が越流面になる。給水装置でない水槽類で、建築物衛生法の特定建築物に当たる場合も基準は水道法と同様(越流面は管の中心)。水道法・建築物衛生法いずれの適用外の水槽では「建築設備設計・施工上の運用指針 2013年版」で指導される場合が多い。加えて、高置タンク等が簡易専用水道に該当すれば水道法適用に戻る、という注意も添えられています。
hisi 氏は「あえて正解を求めるなら『水道法』が答えではないか」としたうえで、物件単位の実務解として、設計図書の仕様書や受水槽まわりの要領図に寸法指定がないかを先に確認し、管轄の水道局に問い合わせてもよい、設計図書も水道局も指定がないならどの指針を採用してもよい、と整理しています。質問者は最後に「おかげさまで、考え方を整理すつことができました」(原文ママ)と締めています。
一方、設計実務者のブログ「建築設備ラボ」は、あふれ縁について「横取り出しのオーバーフロー管の場合はその下端とし、立て取り出しの場合はその上端とする」と書いています(建築設備ラボ「給水の吐水口空間の計画」)。本記事が引いた2つの情報源は、この一点で正面から食い違います。どちらが嘘なのではなく、前者が水道法系の技術指針の取り方であるのに対し、後者は運用指針側の取り方と一致する、という違いです(ラボ記事自体は出典を明記していないため、どの基準に依ったかは断定できません)。ここを意識せずに検索して最初に出てきた説明を採ると、根拠を聞かれたときに答えられません。
整理すると、少なくとも次の3系統があります。
- 水道法系(給水装置):水道法第16条 → 施行令第6条 → 省令(平成9年厚生省令第14号)第5条・別表第二/第三。本記事で扱った数値はこれ。給水装置=配水管の分岐から給水用具までが対象
- 建築基準法系(建築設備):建築基準法第36条 → 施行令第129条の2の4 → 昭和50年建設省告示第1597号。同令第129条の2の4第2項の柱書は「建築物に設ける飲料水の配管設備(水道法第三条第九項に規定する給水装置に該当する配管設備を除く。)」と、給水装置を明示的に除外しています。つまり受水槽以降のように給水装置でない部分がこちらの領域です
- 学会・団体規準:「建築設備設計・施工上の運用指針」「給水装置工事技術指針」、空気調和・衛生工学会規格など。法令ではないが、設計図書で引用されると契約上の要求事項になります
加えて、水道事業者ごとの供給規程・給水装置工事施行基準が上乗せされます。自治体によって受水槽まわりの要求が違うのはこのためです。「法令ではこう」と「この現場ではこう」は、どちらも正しいまま食い違います。
「管径の2倍」はどこから来たのか
条文を全部当たっても、垂直距離を「管径の2倍」とする規定は出てきません。では何が2倍なのか。
前掲の建築設備ラボは、計画上の留意事項として「近接壁から吐水口中心までの離れを2D以上とる」を挙げています。こちらは水平方向の目安です。省令の別表第二も、垂直距離と水平距離に同じ数値(25/40/50mm)を並べる構造をしています。垂直と水平で基準点も要求も違うのに数値が並んでいるため、水平側の「2D」が垂直の話として持ち出されている——というのが、条文と現場の言い回しを突き合わせた筆者の読みです(この由来自体は法令に書かれたものではなく、あくまで推測として扱ってください)。
いずれにせよ実務上の結論は同じで、垂直距離を主張するなら別表第二の下欄か別表第三の式から、水平距離を主張するなら別表第二の中欄から引く。「2倍」という言い方は、どちらの話なのかが落ちている時点で根拠として使えません。
一番多い取り違え:吐水口空間と排水口空間は別物
現場で出てくる「150mm」のもう一つの出どころが、排水口空間との混同です。
- 吐水口空間:給水側。越流面から吐水口最下端までの垂直距離。水を「入れる」側で逆流を防ぐ
- 排水口空間:排水側。受水槽等のオーバーフロー管・水抜管を排水系統へ間接排水する際の縁切り距離。汚水が槽へ這い上がるのを防ぐ
間接排水そのものは法令で求められています。昭50建告1597号 第二 一 ロ (4) は、排水管を給水タンク等の水抜管及びオーバーフロー管に直接連結してはならないと定めています。ただし、そこに「排水口空間は150mm以上」という数値は書かれていません。よく引かれる150mmは、空気調和・衛生工学会規格や建築設備設計基準といった法令外の規準側の値です。つまり吐水口空間の150mm(バキュームブレーカの設置高さ)とも、法令の数値とも出どころが違います。
目的も対象も違うのに、どちらも「管端からの垂直の隙間」なので、名前と数値が入れ替わって記憶されがちです。受水槽の図面で1箇所しか隙間を確認していないなら、たいてい片方を見落としています。給水側と排水側は必ずセットで拾ってください。
次に確認しておくべきこと
吐水口空間を押さえたら、同じ受水槽まわりで隣り合って問題になるのは次の項目です。ここまで一緒に確認しておくと、同じ現場で二度指摘を受けずに済みます。
- 排水口空間(上記)。オーバーフロー管・水抜管の間接排水。給水側と同時に見る
- 受水槽の保守点検スペース。建築基準法系(令第129条の2の4/昭50建告1597号)の領域です。告示は、給水タンク等を建築物の内部・屋上・最下階の床下に設ける場合について、外部から天井、底又は周壁の保守点検を容易かつ安全に行えるように設けることを求めています(それ以外の場所に設ける場合は別途の規定)。俗に言う「六面点検」がこれで、底面の点検が抜け落ちやすいので注意。設置後に躯体を動かせないため、設計初期に確定しておく必要があります
- オーバーフロー管の防虫網と間接排水。逆流だけでなく虫・小動物の侵入経路になる
- クロスコネクションの有無。井水・雑用水・消火用水と飲料水系統が直結していないか。施行令第6条第1項第6号
- 当該水道事業者の給水装置工事施行基準。省令より厳しい上乗せがないかを、設計段階で該当自治体のものに当たる
- その水槽がどの法体系に乗るか。給水装置か/建築物衛生法の特定建築物か/簡易専用水道か。ここが決まらないと、越流面の起点すら決まりません
本記事の数値はe-Gov法令検索の当該省令の条文と別表を直接参照して記載しています。設計・申請で使う際は、着手時点の最新条文をご自身でも確認してください。給水行政は2024年(令和6年)4月に厚生労働省から国土交通省・環境省へ移管されており、条文中の主務大臣は現在「国土交通大臣」等に改まっています(省令の番号自体は制定時の平成9年厚生省令第14号のままです)。「厚生労働省令が定める試験」と書いてある解説は、それだけで更新が止まっている目印になります。
よくある質問
給水管径が25mm以下のとき、吐水口空間は具体的に何mm確保すれば適合となりますか?
呼び径の区分で決まります。13mm以下は25mm以上、13mm超20mm以下は40mm以上、20mm超25mm以下は50mm以上(いずれも越流面から吐水口最下端までの垂直距離/別表第二 下欄)。近接壁から吐水口中心までの水平距離についても、同じ区分で同じ数値が中欄に定められています。
「呼び径25mm以下は一律50mm以上」という規定は条文にありません。ただし浴槽に給水する場合は備考1により下欄の25mm・40mmが50mmに読み替えられ、プール等の波立ちやすい水槽や事業活動に伴い洗剤・薬品を入れる水槽・容器は備考2により下欄が一律200mmに読み替えられます。いずれも読み替わるのは下欄(垂直距離)だけで、中欄の水平距離は25/40/50mmのままです。50mmや200mmという数字を見たら、まずどの読み替えの話かを確認してください。
吐水口空間が十分に確保できない場合、どのような代替措置や装置が必要ですか?
省令第5条第1項第1号の逆流防止性能又は負圧破壊性能を持つ給水用具を、逆流を防止できる適切な位置に設置します。バキュームブレーカを用いる場合は水受け容器の越流面の上方150mm以上の位置で、負圧破壊性能試験(−54kPa)における透明管内の水位上昇が75mm以下の性能が必要です。
ただし条文上成立しても、事業者側の運用で通らないことがあります。前掲の建築設備ラボは、水道直結方式でバキュームブレーカ付きの地中埋設型散水栓を計画したところ、水道局から吐水口空間を確保するよう指導を受け、水栓柱への変更と意匠コスト増を招いた経験を「これはまぁまぁ工事部門に怒られる案件です」「採用するのであれば事前に行政確認を済ますべきでした」と書いています。代替措置に振る判断は、事前協議とセットで考えるものだと分かります。
法定基準に適合しない施工をした場合、水道法に基づきどのようなペナルティがありますか?
水道法第16条により、水道事業者は供給規程の定めるところに従い、給水契約の申込を拒み、または基準に適合させるまでの間、給水を停止することができます。罰金等の直接的な制裁規定ではなく、水が出ないという形で効いてきます。引き渡し直前に発覚すると是正のための手戻りが大きくなるため、器具選定と図面段階で潰しておくのが実務上は最も安上がりです。
まとめ
吐水口空間は、装置に頼らず物理的な隙間で逆流を止める、給水設備でもっとも確実な安全策です。数値の根拠は給水装置の構造及び材質の基準に関する省令第5条第1項第2号と別表第二・別表第三にあり、呼び径25mm以下は区分ごとの固定値(25/40/50mm)、25mm超は有効開口の内径と近接壁の条件による算定式です。
現場で流通している「管径の2倍」「一律50mm」「150mm」は、いずれも条文の吐水口空間の規定そのものではありません。150mmはバキュームブレーカの設置高さか、法令外の規準が定める排水口空間の値が混ざったものです。数値を主張するときは、その数値がどの表のどの欄から来たかを一緒に言えるかどうか——それだけで、指摘が通るか押し返されるかが分かれます。
そして、越流面の起点ひとつでもベテランの見解が割れるように、この分野は基準系が重なっています。水道法系の条文を確認したうえで、その水槽がどの法体系に乗るのか、事業者の施行基準に上乗せがないのかをもう一段確かめる。手間のようですが、是正工事1回分より確実に短い時間で済みます。
実務資料
吐水口空間を、給排水設備全体の設計へつなげる
『給排水衛生設備計画設計の実務の知識(改訂4版)』は、給水設備における飲料水の汚染防止から排水通気設備までを一冊で扱う実務書です。吐水口空間の数値を確認したあと、方式選定・管径決定・機器容量・維持管理を含む設備計画全体へ判断を広げる用途に向きます。
- 空気調和・衛生工学会編、オーム社が現行の最新改訂版として案内
- 給水設備における飲料水の汚染防止と排水通気設備を体系的に収録
- 計画・設計の手順、機器容量や管径の決定、設計例まで扱う
本書は2017年刊行の現行改訂版ですが、法令・規準・自治体基準はその後も改正されます。設計・申請では、着手時点の法令本文と採用規準の版、当該自治体の基準を別途確認してください。