特定防火設備と防火設備の違い|遮炎20分・60分の根拠と、区画ごとの使い分け
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結論 — 違いは「遮炎性能の長さ」。20分なら防火設備、60分なら特定防火設備で、どちらが要るかは設備そのものではなく区画の種類が決める
防火設備(建築基準法第2条第9号の2ロ)は、通常の火災による火熱に加熱開始後20分間耐えるものとして政令で定める技術的基準(施行令第109条の2)に適合する防火戸等をいいます。特定防火設備(施行令第112条第1項)は、この防火設備のうち加熱開始後60分間(1時間)火炎を出さないものと定義されており、防火設備の上位区分にあたります。
どちらを設けるかは防火戸の見た目や製品名では決まらず、区画の種類が決めます。面積区画(令112条1項・4項・5項)と異種用途区画(同条18項)は特定防火設備(60分)、竪穴区画(同条11項)・避難階段の出入口(令123条1項6号)・防火地域等の外壁開口部(法61条・令136条の2)は防火設備(20分)が原則です。
閉鎖方式にも区画による違いがあります。面積区画等に使う特定防火設備は「煙感知または温度急昇」のいずれかで自動閉鎖すればよい一方、竪穴区画等に使う防火設備は「煙感知のみ」で自動閉鎖し、かつ避難上・防火上支障のない遮煙性能を有することが必須です(令112条19項1号・2号)。「特定防火設備の方が要件が厳しい」と単純化すると、この遮煙性能の要件を見落とします。
本文の基準日と11月1日の改正:本文は2026年10月19日の施行中条文を基にしています。9月16日公布の令和8年政令第284号は、11月1日から令112条1・4・5・11項(面積区画・竪穴区画)に大臣指定の除外規定を追加します。詳細を定める関係告示は10月19日時点では案です。11月1日以後の設計・申請では、改正後条文と公布された告示の適用条件を確認してください。改正概要・施行日/関係告示案。
確認申請の図面で「PS1H」「特定防火設備」「甲種防火戸」といった表記を見て、結局どちらを指しているのか分からなくなることがあります。この記事では、防火設備と特定防火設備の定義の違い、区画の種類ごとの対応、閉鎖方式・遮煙性能の要件、告示が定める具体的な仕様の差、旧「甲種/乙種防火戸」からの読み替えを一次資料で整理します。
法令確認日:2026年9月21日。e-Govで現行として提供される建築基準法・施行令(法令ID 325AC0000000201・325CO0000000338)、国土交通省の告示原文PDFを確認しています。個別の確認申請では、適用時点の法令と確認図書、指定確認検査機関・特定行政庁への照会結果を優先してください。
防火設備と特定防火設備は「遮炎性能の長さ」で区別する
防火設備の定義(法2条9号の2ロ・令109条・令109条の2)
法2条9号の2ロは、耐火建築物の外壁開口部について「防火戸その他の政令で定める防火設備(その構造が遮炎性能に関して政令で定める技術的基準に適合するもので、国土交通大臣が定めた構造方法を用いるもの又は認定を受けたものに限る)」と定めています。この「政令で定める防火設備」の種類を定めるのが令109条(防火戸、ドレンチャーその他火炎を遮る設備)、「遮炎性能の技術的基準」を定めるのが令109条の2で、その基準は「加熱開始後20分間当該加熱面以外の面に火炎を出さないもの」です。
特定防火設備は「防火設備のうち60分」(令112条1項)
令112条1項は防火区画(面積区画)の要求水準として「特定防火設備」を定義しています。条文上の定義は「第百九条に規定する防火設備であつて、これに通常の火災による火熱が加えられた場合に、加熱開始後一時間当該加熱面以外の面に火炎を出さないものとして、国土交通大臣が定めた構造方法を用いるもの又は国土交通大臣の認定を受けたものをいう」で、防火設備(令109条)の中から遮炎性能60分のものだけを切り出した区分です。「特定防火設備」と「防火設備」は別の設備カテゴリではなく、同じ令109条の防火設備を遮炎性能の長さ(20分/60分)で分けたものという理解が出発点になります。
どちらを使うかは区画の種類が決める
同じ「防火戸」という製品でも、設置する区画によって要求される遮炎性能が変わります。主な区画・部位と根拠条文の対応は次のとおりです。
| 区画・部位 | 要求される設備 | 根拠 |
|---|---|---|
| 面積区画(1,500㎡超) | 特定防火設備(60分)または準耐火構造の床・壁 | 令112条1項 |
| 面積区画(性能規定代替・500㎡/1,000㎡超) | 特定防火設備(60分)または準耐火構造の床・壁 | 令112条4項・5項 |
| 竪穴区画 | 防火設備(20分・遮煙性能必須)または準耐火構造の床・壁 | 令112条11項 |
| 3階建て病院等の竪穴部分(限定条件) | 防火設備(20分)、スプリンクラー設置時は十分間防火設備 | 令112条12項・告示198号 |
| 異種用途区画(法27条該当) | 特定防火設備(60分・遮煙性能必須)または準耐火構造の床・壁 | 令112条18項 |
| 防火地域・準防火地域の外壁開口部(延焼のおそれのある部分) | 防火設備(20分・外壁開口部設備) | 法61条・令136条の2第1項1号イ |
| 屋内避難階段の出入口 | 防火設備(20分)。ただし令112条19項2号の遮煙構造であること | 令123条1項6号 |
「防火地域だから特定防火設備」「避難階段だから最も厳重な設備」という判断は正確ではありません。防火地域等の外壁開口部も、屋内避難階段の出入口も、条文が要求しているのは遮炎性能20分の防火設備です(ただし避難階段の出入口は後述する遮煙性能の要件が別途課されます)。特定防火設備(60分)が必要なのは、面積区画・異種用途区画など、区画そのものが1時間準耐火基準の床・壁と同等の遮炎性能を求められる場面に限られます。
閉鎖方式・遮煙性能は区画の種類で分かれる(令112条19項)
令112条19項は、区画に用いる特定防火設備・防火設備・十分間防火設備・戸の構造要件を、区画の種類ごとに1号・2号へ分けています。
| 区画 | 自動閉鎖 | 遮煙性能 |
|---|---|---|
| 面積区画等(1号) | 煙または温度急昇 | 明記なし |
| 竪穴・避難階段等(2号) | 煙のみ | 必須 |
19項1号が対象とするのは面積区画本体(1項本文・4項・5項)の特定防火設備と7項の防火設備に限られます。19項2号が対象とするのは、階段室部分等(1項2号)・10項・異種用途区画(18項)の特定防火設備、10項・竪穴区画(11項)・12項本文の防火設備、12項ただし書の十分間防火設備、13項の戸です。1号の要件(イ〜ニ)は常時/随時閉鎖・周囲の安全・避難上支障がないことに加えて煙または温度急昇での自動閉鎖を求めますが、遮煙性能そのものは明記されていません。2号は1号の要件に加えて「避難上及び防火上支障のない遮煙性能」を明記し、自動閉鎖のトリガーも煙感知のみに絞っています。
ここが最も混同しやすい点です。「特定防火設備(60分)だから遮煙性能は要らない」という一般化は誤りです。同じ特定防火設備でも、面積区画本体(1項本文・4項・5項)に使うものは19項1号(遮煙性能の明記なし)の対象ですが、異種用途区画(18項)に使う特定防火設備は19項2号の対象で、遮煙性能が必須です。竪穴区画や避難階段に使う防火設備(20分)も同じく19項2号で遮煙性能が必須になります。「遮炎時間が長い設備の方が閉鎖要件も厳しい」という直感、また「特定防火設備か防火設備かだけで遮煙性能の要否が決まる」という理解のどちらも、この条文の構造とは一致しません。遮煙性能の要否は設備の区分(特定防火設備/防火設備)ではなく、どの区画(何項)に使う設備かで決まります。
告示が定める具体的な仕様の差(1360号・1369号)
防火設備の構造方法は平成12年建設省告示第1360号、特定防火設備の構造方法は同第1369号がそれぞれ定めています。代表的な仕様を比べると次のとおりです。
| 構造 | 防火設備(20分) | 特定防火設備(60分) |
|---|---|---|
| 鉄製 | 鉄板厚さ0.8mm以上1.5mm未満 | 鉄板厚さ1.5mm以上、または両面それぞれ0.5mm以上の鉄板張り骨組 |
| 鉄骨/鉄筋コンクリート製 | 厚さ3.5cm未満 | 厚さ3.5cm以上 |
| 土蔵造 | 厚さ15cm未満 | 厚さ15cm以上 |
| 鉄+網入りガラス | 該当あり(告示第一第二号ニ) | 該当する構造の規定なし |
| 木製(防火塗料+木毛セメント板等) | 該当あり(告示第一第二号ホ) | 該当する構造の規定なし |
網入りガラスの窓は、告示1360号の仕様に該当する「防火設備」であって、告示1369号には網入りガラスに該当する構造の規定がありません。つまり網入りガラス単体の建具は特定防火設備にはなり得ず、面積区画等で特定防火設備が要求される開口部には使えません(大臣認定を別途取得している製品を除く)。「網入りガラス=防火設備全般に使える」という理解のまま特定防火設備が必要な区画へ転用しないよう、区画の種類を先に確認します。
十分間防火設備(告示198号)はごく限定的な代替
「10分間防火設備」という言葉から、20分・60分に次ぐ第三の一般的な区分と誤解されることがありますが、実際の適用範囲は非常に狭いものです。令112条12項ただし書に基づき、3階を病院・診療所(患者の収容施設があるものに限る)または児童福祉施設等(入所する者の寝室があるものに限る)の用途に供する建築物のうち、階数が3で延べ面積が200㎡未満のもの(同条12項が対象とする建築物)に限り、居室・倉庫等にスプリンクラー設備等を設けた場合に、通常求められる20分の防火設備に代えて10分間の遮炎性能を有する防火設備(令和2年国土交通省告示第198号が定める構造方法)を使うことができます。
竪穴区画の本則(11項)やホテル・共同住宅等の3階建て(13項)には、この代替規定はありません。「スプリンクラーを設置すれば防火設備を10分間仕様に軽減できる」と一般化せず、対象建築物の用途・階数・延べ面積が12項の要件に該当するかを先に確認します。
旧「甲種/乙種防火戸」からの読み替え
実務上、2000年(平成12年)6月1日施行の建築基準法改正(性能規定化)以前は、現在の特定防火設備に相当するものを「甲種防火戸」、防火設備に相当するものを「乙種防火戸」と呼んでいたとされます。告示1360号・1369号もいずれも同日(平成12年6月1日)から施行されており、この改正を境に用語が整理されています。古い確認済証・確認申請図書や既存不適格の調査で「甲種防火戸」「乙種防火戸」という表記に出会った場合は、その書類の作成時点の法令に基づく表記である前提で、現行の特定防火設備・防火設備のどちらに相当するかを個別に確認してください。用語が変わっただけで性能の実体(60分/20分)が変わったわけではありませんが、告示改正で構造方法の細目が更新されている場合があるため、現行の構造方法(1360号・1369号の最新改正)と照合します。
よくある質問
網入りガラスの窓は特定防火設備になりますか?
告示1369号(特定防火設備の構造方法)には網入りガラスに該当する構造の規定がなく、告示1360号(防火設備の構造方法)にのみ規定があります。したがって網入りガラス単体の建具は防火設備(20分)であって、特定防火設備(60分)にはなりません。大臣認定を別途取得した特殊な製品は例外なので、製品の認定書で確認してください。
避難階段の出入口には特定防火設備が必要ですか?
令123条1項6号が要求するのは「法2条9号の2ロに規定する防火設備で第112条19項2号に規定する構造であるもの」、つまり遮炎性能20分の防火設備です。特定防火設備(60分)は求められていません。ただし19項2号の要件により、煙感知による自動閉鎖と、避難上・防火上支障のない遮煙性能を備えている必要があります。
十分間防火設備はどんな建物でも使えますか?
使えません。令112条12項が対象とする建築物、具体的には3階を病院・診療所(患者の収容施設があるものに限る)または児童福祉施設等(入所する者の寝室があるものに限る)とし、階数3・延べ面積200㎡未満で、居室・倉庫等にスプリンクラー設備等を設けたものに限られる代替規定です。竪穴区画の本則やその他の区画には適用されません。
まとめ
防火設備(20分・令109条の2)と特定防火設備(60分・令112条1項)は、同じ令109条の防火戸等を遮炎性能の長さで分けた区分です。どちらを使うかは区画の種類(面積区画・竪穴区画・異種用途区画・避難階段・防火地域の外壁開口部)が決め、閉鎖方式・遮煙性能の要件も区画によって異なります(令112条19項1号・2号)。10分間防火設備(告示198号)は特定の3階建て用途建築物だけの限定的な代替で、旧「甲種/乙種防火戸」は2000年6月1日の改正で現行用語に整理されました。
| 項目 | 基準 | 一次根拠 |
|---|---|---|
| 防火設備 | 遮炎性能20分 | 法2条9号の2ロ・令109条・令109条の2 |
| 特定防火設備 | 遮炎性能60分(防火設備の一種) | 令112条1項 |
| 竪穴区画・避難階段の閉鎖要件 | 煙感知のみ+遮煙性能必須 | 令112条19項2号・令123条1項6号 |
| 面積区画等の閉鎖要件 | 煙感知または温度急昇 | 令112条19項1号 |
| 十分間防火設備 | 3階建て病院等・200㎡未満・スプリンクラー設置時のみ | 令112条12項・告示198号 |
区画の種類そのものを先に確認したい場合は竪穴区画の記事、貫通処理まで含めた防火区画全体の確認は防火区画の配管貫通処理の記事を参照してください。避難計画側からは非常用進入口の記事、居室の採光・換気・排煙の判定は居室の定義の記事で確認できます。
出典
- 建築基準法(昭和25年法律第201号) 第2条第9号の2・第27条・第61条 — e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000201
- 建築基準法施行令(昭和25年政令第338号) 第109条・第109条の2・第112条第1項・第4項・第5項・第11項・第12項・第18項・第19項、第123条第1項第6号、第136条の2 — e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/325CO0000000338
- 防火設備の構造方法を定める件(平成12年5月24日建設省告示第1360号) https://www.mlit.go.jp/notice/noticedata/pdf/201703/00006451.pdf
- 特定防火設備の構造方法を定める件(平成12年5月25日建設省告示第1369号) https://www.mlit.go.jp/notice/noticedata/pdf/201703/00006457.pdf
- 十分間防火設備の構造方法を定める件(令和2年2月27日国土交通省告示第198号)、国住指第3958号(令和2年2月27日)技術的助言 第2 https://www.mlit.go.jp/common/001339936.pdf